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STEEL CAN AGE

ECO TALK

適量生産、適量消費、そして適量リサイクル。 “スローな循環”が求められています。

北野大(明治大学教授/工学博士)

終始にこやかに目を細め、ユーモアを交えながら独特の口調で語る様子は、テレビでおなじみの姿そのまま。環境への広く深い知識をもとに、社会的な話題から趣味のことまで、ざっくばらんに語っていただきました。

僕の専門である「環境化学」は、さまざまな化学物質が、環境の中でどのような挙動をするのか、また環境にどのような影響を与えるのかを研究する学問です。

今でこそ環境問題は世界的な関心事だけど、僕が学生の頃は高度経済成長まっただ中。新しい化学物質を作り出す方ばかりがもてはやされて、こう言っちゃなんだけど、かなり日陰の存在でした。この分野に進んだのも「地球の自然を守る!」なんて高い志があったわけじゃなくて、偶然が重なった結果というか。でも続けるうちにわかったんです。どんなに優れた化学物質でも、環境と共存できなければ人間を幸せにできない。逆に言うと、環境への影響を探ることは、その物質を最大限に活用することにつながるって。今ではもちろん、強いやりがいを感じています。

普段から、人がいない部屋の電気をこまめに消す、コピーの裏紙を再利用するなど、ムダ使いには気をつけています。でもそれはエコっていうより「もったいない」の気持ちから。僕らが子どもの頃はモノが非常に不足した時代だから、例えば新聞紙を習字の練習に使ったり、お弁当の包み紙にしたり、そういった“リユース”はごく普通にやっていた。ここ数十年で大量生産、大量消費の時代になって、その感覚が薄れつつあることは残念です。

ただ、だからといって、昔に戻れってわけじゃない。それじゃ続かないでしょ。

近年エコがブームのようになっていますが、いかにブームで終わらせず「継続」させるかが重要です。じゃあ続けるためにはどうするか。それは「なぜ」を知ることです。なぜごみを分別すべきか。それはごみを減らすため。じゃあなぜごみを減らすべきか。こうやって「なぜ」を突き詰めていけば、納得して行動できる。ごみの分別だって、以前に比べたらずいぶん複雑だけど、でも理由がわかるからやるし、続けられる。

現在人類は、かつてないほどの“資源の枯渇”の危機に直面しています。次の世代に美しい環境を残すことは、いわば世代間の倫理。これからは適量生産、適量消費、そして適量リサイクルという“スローな循環”の実現が一層求められます。

リサイクルは、一から作るよりもエネルギー消費をグンと抑えられるという大きなメリットがある。容器にもガラスびんやペットボトルなどさまざまな素材がありますが、スチール缶は強度が高く光の透過性が低いため、内容物を安全に、長期間保存できる。これは他の容器にはない特性です。見方によっては環境化学は物質の持ち味を最大限に活かす方法を探る学問とも言えますが、スチール缶も、特長をフルに活かした利用が大切なのではないでしょうか。つまりなんでも賢く利用することが大切ですね。

数年前から家庭菜園を始めました。名付けて「北野ファーム」。作っているのは主に夏野菜でキュウリ、ナス、トマトなどです。昨年ゴーヤを植えたら2階のベランダまでツルが伸びちゃって、自然のエネルギーに驚かされました。できた野菜を楽しむのはもちろんですが、生ごみを埋めて肥料にすればごみの減量になるし、ツルが伸びる植物は、南側に植えておくと、“緑のカーテン”になって夏の日差しを遮ってくれる。本当にうまくできているなあと感心します。

地産・地消のごくシンプルな形。これもスローな循環のひとつと言えるのかな。

 
 

profile
1942年東京都生まれ。明治大学工学部卒業、東京都立大学大学院 工学研究科工業化学専攻 博士課程修了。専門は環境化学。現在は明治大学大学院で教鞭をとるかたわら、テレビのコメンテーター、各所での講演など多方面で活躍。『環境ホルモンから家族を守る50の方法』(監修、かんき出版)、『ゴミ・リサイクル・ダイオキシン』(共著、研成社)、『ドクター北野の地球なんでも好奇心』(NHK出版)など環境に関する著書も多い。
最近の楽しみは、購入したばかりのiPodで、通勤時間を利用して英語のニュース番組を観賞することだそう。