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STEEL CAN AGE

ECO TALK

サッカーで実現できる社会連携とは。

元サッカー日本代表でJリーグ発足時からヴェルディの黄金時代を支えてきた北澤豪さん。2003年の引退後はサッカーの解説者を務める一方で、JICAのオフィシャルサポーターなどとして10年間以上さまざまな国を訪問。2012年に日本サッカー協会理事、2016年には日本障がい者サッカー連盟(JIFF)の会長に就任されました。休みなく精力的に活動される北澤さんに、世界各地での環境問題についてお話を伺いしました。

JICAのオフィシャルサポーターとして、これまでにさまざまな途上国と呼ばれる地域を訪問してきました。パレスチナ、シリア、カンボジア、ラオス、カメルーン、南アフリカ共和国、ザンビア……。中でもサッカーを通じてつながりの深いブラジルには何度も訪れ、アマゾン川流域の環境問題などを目の当たりにしました。

今、アマゾン川周辺は、森林伐採後の土地が相当な規模になっていて大きな問題となっています。でも、実際に農業や畜産業をやっている人たちにしてみれば、自分たちが食べるために伐採しながら農地を開拓しなければならない面がある。貧困が生み出している問題でもあるわけですね。そういった問題を解決するために「アグロフォレストリー」という手法(土地を有効活用し、森林の保護と作物栽培の両立を図る)を使えば、伐採を繰り返すだけでなく、育てるものを変えて循環させてやることができる。ブラジルでは、実際に日系人の方がアグロフォレストリーを提案して成功している例もあるそうです。

フィリピンのスモーキーマウンテンにも行きました。ごみを焼却せずにそのままにして人々の健康被害をもたらしていることが大きな問題となっている場所です。でも、その近所にはリサイクルショップが多くある。それこそスチール缶などはお金になりますから高値で売れるそうです。つまりごみを拾ってお金に換えて生計を立てている人たちが大勢いて、ごみ山をなくしてしまったら困る人たちがたくさん出てくるというわけです。ここにも貧困問題があります。現地では「ごみの分別」という考え方が、そもそもありません。そういった中で地域の学校を巡回し、子どもたちに3R(ゴミをReduce「減らす」、Reuse「再使用」、Recycle「再資源化」)やごみの分別について教えていくと、みんなすごくやりたがるし、知りたがる。教育はとても重要です。

サッカーで各国を回るときにも、我々はごみ拾いからスタートします。グラウンドで水を飲んで、そのままペットボトルのキャップを捨てたりする選手がいて、「自分たちのチャンスを掴む場所なのにごみを捨てるとはどういうことだ!」と。ぐちゃぐちゃなグラウンドでは選手たちもモチベーションが上がらない。きれいに整備されたグラウンドではやる気も出るし、伸び幅も変わると思います。ですから、日本サッカー協会公認の指導者ライセンスの受講要項の中には「ちゃんと練習環境を整えましょう」といった内容がきちんと入っています。とても大事なことです。

Jリーグの発足は1992年で、当初は10クラブしかなかったのに、今や54クラブあります。それぞれのクラブでは海岸のごみ拾いや川をキレイにするなど、さまざまな形で地域への貢献活動をしています。それもJリーグのやるべきことだと思っています。ただ競技力を上げるだけじゃなく、競技を楽しむ中で環境がキレイになり改善していくこともJリーグの理念には含まれています。それは社会貢献というよりは「社会連携」という言葉のほうが、より相応しいのではないかと僕は思います。一緒になって社会の中で連携していく―資源のリサイクルでメーカーと消費者が連携するように、選手とサポーターが手を取り合って地域に貢献していく―そういったことがすごく重要だなと思います。

 
 

profile
1968年東京生まれ。修徳高校卒業後、本田技研工業株式会社に入社。海外へのサッカー留学・日本代表初選出を経て、読売クラブ(現・東京ヴェルディ)へ。日本代表としても多数の国際試合で活躍した。2003年の現役引退後は社会貢献活動にも積極的に取り組み、サッカーを通じて世界の子どもたちを支援できる環境づくりを目指している。