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STEEL CAN AGE

MY ANGLE

社会的・経済的メリットを生み出すごみ減量化への取り組み

早稲田大学政治経済学部教授 寄本勝美

自治体が清掃事業の一環として再生資源の分別収集などリサイクル事業に着手し始めたのは、1970 年代後半からであったが、そのほとんどの場合、資源の有効利用を第一の目的にしていたわけではなかった。その主たる理由は、埋立処理地や清掃工場用地の取得難のために、ごみ処理事業が重大な危機に陥ることが予想されたことから、それを乗り切るためには何としてでもごみを減らさなければならず、それにはリサイクルによるごみ減量が有効と考えられたからである。

自治体のリサイクル事業は、ごみ問題で窮地に立たされた自治体がごみ減量化の手段として活用してきた。しかし、その効果はごみ減量化にとどまらず、さまざまなメリットを生み出している。

第一に、清掃事業やごみ処理事業はかつて社会の裏側でできるだけ目立たず、費用をかけずにうまく行うべきものとされてきた。ところが、ごみ問題が深刻化するにつれ状況は一変し、ごみ処理とリサイクルは表舞台に躍り出て、最新技術と市民参加に支えられながら自治体あげての取り組みに至っている。日本はドイツやアメリカに比べ、分別収集という仕組みが非常に発達している。スチール缶については、自治体の分別収集による回収がやはり一番無理のない仕組みであり、日本の特性を活かしていく必要がある。

第二には、リサイクルによって資源の有効利用と節約にも大きな成果が得られた。リサイクルそれ自体も資源を消費し、コストが生じる。日本の自治体における予算配分は少ないと批判されるほどではないが、海外の先進地域と比較すると10 分の1 以下のレベルにある。ある程度コストがかかるものの、環境負荷の軽減効果を計算に含めれば、経済的効果の大きさに一層注目することができるはずである。

第三に、リサイクル活動は市民・企業・行政のパートナーシップ、子供や大人の環境学習と実践活動、企業による社会的貢献、さらにはボランティア活動と街づくりなどを実行する格好の機会となっている。社会のあらゆる分野とのつながりを保ちながら、地球環境時代に相応しい資源の循環と廃棄物の適正処理をしていくため、リサイクル活動は最重要の社会的課題の一つになっている。

スチール缶のリサイクル率は世界トップクラスを誇っているが、絶対量が多いため、これからも回収率を高める努力は当然必要となる。テストの点数を60 点から80 点に引き上げることよりも、85 点からあと5 点引き上げることの方がより特別な努力が求められる。まさにスチール缶リサイクルはこうした状況に突入しており、市民・企業・自治体の三位一体の連携が今後ますます重要となる。(談)

 
 

profile
寄本勝美(よりもと・かつみ) 1940年1940年和歌山県生まれ。78年現職、94~97には同学部長、98年から廃棄物学会会長に就任。専門分野は地方自治論と環境政策。環境問題については市民活動に参加する一方、国や自治体の諮問機関において研究者委員を務める。著書は「政策の形成と市民」(有斐閣)「ごみとリサイクル」(岩波新書)「自治の形成と市民」(東京大学出版会)など多数。