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STEEL CAN AGE

OVERSEAS REPORT

循環型社会を目指すアメリカの挑戦(下)
~カリフォルニア州、シアトル市~

カーブサイドリサイクリングプログラム(以下カーブサイドプログラム)とは、カーブサイド、つまり各家庭の前庭と公道が接する道路脇に、市民が一定のルールに従って再生資源を分別排出し、自治体や処理業者が分別収集する仕組みを言う。このシステムがアメリカで始まったのはシアトル市(1988年実施)からで、その後、各州の自治体の努力で、95年にはEPA(環境保護庁)の目標値(25%)をクリアし、さらに2005年には35%という目標値を掲げている。「循環型社会を目指すアメリカの挑戦(下)」では、西海岸、中でもカリフォルニア州とシアトル市にスポットを当てて、カーブサイドプログラムと併用して実施されている独自の試みをご紹介する。

リデンプション制度は、カリフォルニアの広大な土地が前提

カリフォルニア州のカーブサイドプログラムのカバー人口数は、97年の時点でアメリカ最大の1,780万人(州人口の75%)。同プログラムがゴミの再資源化の主流システムとして機能していることがわかる。

飲料容器のリサイクルについてはデポジット制度を併用しているが、この制度を採用している他の9州とは少し異なり、容器ではなく内容物(ビール、その他のモルト飲料、ワインクーラー、炭酸飲料)にかける方式「リデンプション制度」を施行している。86年に制定された「飲料容器のリサイクリングと散乱減少法」に基づいて整備された制度だ。消費者が支払うリデンプションフィーを州が管理し、非回収容器分のリデンプションフィーを州環境局の管理費やカーブサイドプログラムの支援、再使用促進費などに運用している。同制度の特長は2つ。まずデポジット制度の欠点の1つである資源回収業者ではない小売店業者や卸売業者に容器が戻ってくる方式を、消費者が資源回収業者に直接戻す方式にした点である。具体的には、飲料容器が販売されるとき、1容器毎の商品価格にCRV(カリフォルニア・リデンプション・バリュー)が2.5セント上乗せされ、消費者は許可されたリサイクルセンターに空容器を持参するとリファンドを受けることができる。リサイクルセンターは、州内の一定規模以上の売上店を中心とする半径0.5マイルのコンビニエンスゾーン毎に設置されている(現在1,800~2,000カ所)が、リサイクル専門の拠点を設けるという点で、カリフォルニア州の広大な土地と自動車社会が前提となる。

もう一つの特長は、消費者がリサイクルに協力する際に、多様な選択肢を準備していることである。リファンドを放棄して排出するケースや、カーブサイドプログラムの利用をはじめ、コミュニティーサービスと呼ばれる集団回収に類似した別の収集プログラムやユースの活動などを選択することができる。しかし最終的には、収集する業者もリサイクルセンターに持ち込みリファンドを受けている。

カリフォルニア州では、このリデンプション制度が定着しており、飲料容器のリサイクル、散乱防止に成果をあげているが、MSW(固形廃棄物)全体の4%だけを対象とした飲料容器の回収システムの維持に対して、消費者が大きな負担を強いられているという実感は否めない。

ごみ収集有料制が、リサイクル・ごみの減量化を促進

一方、シアトル市は88年、市内でのごみの埋立処理が困難になったのを機にカーブサイドプログラムをスタートした。市は“CrisisasOpportunity”(災い転じて福となす)というスローガンを掲げ、今日まで積極的なリサイクル事業を展開している。市の固形廃棄物公社(SWU/独立採算制を採用した公益事業体)では、民間業者への業務委託によって、全米で最も進んだ再生資源の分別収集を実現させるとともに、庭ごみのコンポスト化や有害ごみの別途処理、さらにはごみ収集有料制(従量制)の活用などの方策を次々に打ち出してきた。

シアトル市のごみ減量・リサイクル作戦の戦術を一言で言えば、「ごみ収集有料制」の作用によって、「再生資源の分別収集や庭ごみのコンポスト化」を促進するというもの。再生資源の分別収集は無料であるのに対して、普通ごみ、粗大ごみの収集は従量方式の有料制である。ごみの収集料金は、各世帯が使用するごみ容器のサイズによって計り、大きな容器になるほど料金が高くなる。各家庭では適正な容器サイズを自ら選択して市から借りるが、もしも入り切らない場合は、大型容器に切り替えるか、ゴミ袋に市が販売するステッカーを張り付けて排出しなければならない。

当然市民はごみの収集料金の軽減を指向し、できるだけ再生資源を分別収集に出すように心がける。また、自家のごみ容器を小さなサイズのものに切り替えたり、庭ごみのコンポスト化などによるごみの減量化を目指すことになる。88年には市民の40%が容器2個分もしくはそれ以上の大型容器を使用し、1個分より小さいミニ容器の使用がわずか1%だったのに対して、95年には前者は10%台を割り込み、市民の3人に1人がミニ容器を選択するようになった。ただし、こうした容器を選択できる市民は一戸建ての世帯に限られていて、共同のごみ容器を使用するアパートやコンドミニアムの世帯はこの総計に含まれていない。

シアトル市ではこうした「分別収集」と「ごみの有料化」の相乗効果によって、再生資源のリサイクルを民間の活動のみに頼っていた80年代後半の24%から40%台(98年)にまで高めると同時に、88年には46万5,600tあった埋め立てを95年には42万6,000万tにまで減少させ、ごみ問題の最終目的である“ごみの減量化”を著しく促進した。言い換えれば、シアトル市民は“経済的インセンティブ”の作用によって再生資源の分別収集への理解と協力が誘導される仕組みの上に立っている。この場合の“協力”とは「モラル」よりも「実利的」な理由によるところが少なくない。しかし、市民の間では、ごみ問題、環境問題に対応するための手段として、リサイクル・分別収集への評価が高く、タテマエ論議に傾斜しがちな日本人よりもプラクティカルな考え方を好みがちなアメリカ人の傾向が表れていると言えなくもないだろう。

あき缶処理対策協会では、海外調査を重要な事業と位置づけ、調査団を派遣してきました(アメリカ6回、ヨーロッパ6回)派遣毎にまとめられる調査報告は、欧米のリサイクル事情の紹介として各方面の方々にご活用いただいています。

 

※カリフォルニア州については「第6回(1998 年)あき缶問題訪米調査団報告書」から、シアトル市については「清掃事業と地方自治/早稲田大学教授・寄本勝美氏著(早稲田政治経済学雑誌第320 号)」から取りまとめたものです。